その通説って本当?

「群衆の知恵」とは、大勢の人の意見を平均すると、個人の意見よりも正確な答えに近づくという考え方です。例えば、牛の重さを大勢で予想すると、その平均値が実際の重さに非常に近くなるという有名な例がよく知られています。

この考え方は、ビジネスや政治、専門的な判断の場でも応用されています。しかし、本当に大勢で考えれば常に正しい答えが出るのでしょうか。

通説が広まった背景

群衆の知恵という考え方は、20世紀初頭に統計学者のフランシス・ゴルトンが、牛の重さの予想を通じて見出した現象に由来します1。その後、この考え方は経済予測や機械学習、社会的な意思決定の場において、個人の判断の誤りを補う手法として注目されてきました23。

検証エビデンス

研究対象・方法主な結果この通説への意味
Netoら(2022)4経済専門家による1万5千件以上の予測データを分析し、個人の予測と集団の平均・中央値を比較。集団の予測をまとめた値は、ランダムに選んだ専門家個人の予測よりも誤差が小さかった。専門家の予測でも、集団でまとめることで精度が向上することを示している。
Stehouwerら(2023)5臨床現場での診断予測において、個人の判断と集団の判断を比較。集団の判断をまとめた結果は、ほとんどの個人やチームの判断よりも正確だった。医療のような専門的な診断においても、集団の知恵が有効である可能性を示している。
Tangenら(2020)6指紋鑑定の専門家グループに対し、個人の鑑定結果と複数人の鑑定を合わせた結果を比較。少人数の専門家の判断を組み合わせることで、個人の鑑定よりも誤りが減った。安全に関わる専門的な判断でも、集団化が誤りの防止に役立つことを示している。

経済予測や医療診断、指紋鑑定といった専門的な分野において、個人の意見をまとめる手法は、個々の専門家単独の判断よりも高い精度を示すことが確認されています456。特に、個人の判断のばらつきを平均化することで、個別の誤りが打ち消し合う効果が働いていると考えられます16。

一方で、集団の知恵が常に万能というわけではありません。例えば、集団内で特定の意見が過度に影響力を持ったり、環境の変化が激しかったりする場合には、集団の判断が偏るリスクも指摘されています7。

また、判断のタイミングや、時間的な制約がある意思決定については、空間的な判断とは異なる仕組みが必要であるという意見もあります8。集団の知恵を活かすためには、参加者が互いに影響を受けすぎず、独立した判断を行うことが重要です3。

研究全体の動向

多くの研究で、個人の判断を組み合わせることで精度が向上する傾向が確認されています456。しかし、集団の知恵が機能するためには、参加者の多様性や判断の独立性が保たれていることが前提となります3。また、政治的な対立や特定の環境下では、集団の判断が必ずしも賢明とは言えないケースがあることも理解しておく必要があります78。

留意点

  • 研究の多くは専門家や特定の課題を対象としており、日常的なあらゆる判断に当てはまるとは限りません。
  • 集団の知恵は、参加者が互いに影響を受けず、独立して意見を出す場合に最も効果を発揮します。
  • 集団の意見が常に正しいわけではなく、特定の状況下では偏った判断に陥る可能性もあります。
  • この結果は集団としての傾向を示したものであり、個人の判断が常に集団より劣ることを意味するものではありません。

結論

専門的な予測や鑑定の分野では、個人の意見をまとめることで、単独の専門家よりも正確な判断が得られることが多くの研究で確認されています456。ただし、集団の知恵が機能するには、参加者が独立した意見を持つことや、多様性が保たれていることが重要であり、状況によっては集団の判断が偏る可能性もあるため、万能な解決策とは言えません738。

引用元

  1. Yahel Giat, A. Mitelman (2021). The Wisdom of the Crowds and Cost Overruns in Construction Project Tenders [Abstract]. Proceedings of the 2021 InSITE Conference. ↩ ↩2

  2. Joshua Becker, Devon Brackbill, Damon Centola (2017). Network dynamics of social influence in the wisdom of crowds.. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America. ↩

  3. John C. Porcello (2022). A Wisdom of Crowds approach to Supervised Learning Ensembles using FPGAs. IEEE Aerospace Conference. ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  4. Nilton S. Siqueira Neto, J. Fontanari (2022). On the efficacy of the wisdom of crowds to forecast economic indicators. European Physical Journal B : Condensed Matter Physics. ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  5. Nathan R Stehouwer, Keith W Torrey, Michael S Dell (2023). Collective intelligence improves probabilistic diagnostic assessments.. Diagnosis (Berlin, Germany). ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  6. Jason M Tangen, Kirsty M Kent, Rachel A Searston (2020). Collective intelligence in fingerprint analysis.. Cognitive research: principles and implications. ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  7. A. Lo, Ruixun Zhang (2022). The wisdom of crowds versus the madness of mobs: An evolutionary model of bias, polarization, and other challenges to collective intelligence. Collective Intelligence. ↩ ↩2 ↩3

  8. Albert B Kao, Shoubhik Chandan Banerjee, Fritz A Francisco, Andrew M Berdahl (2024). Timing decisions as the next frontier for collective intelligence.. Trends in ecology & evolution. ↩ ↩2 ↩3

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